2023年9月30日第一版発行の塩田武士著「存在のすべてを」のあらすじ・感想をネタバレなしで紹介します。
(読了日2026/9/4)
あらすじ
前代未聞の二児同時誘拐が起こった。
一方の事件の被害男児は事件発生翌日に無事保護され、もう一方は身代金の受け渡しに失敗した後、被害男児の内藤亮は行方不明の状態が続いていた。
しかし事件発生から三年経ったある日、亮は祖父母の家に突然現れる。
亮は事件について何一つ話さないまま、高校卒業後姿を消し、事件は時効を迎えていたが、週刊誌により画家になっていたことが晒された。
新聞記者の門田次郎はこの新たな情報を手掛かりに、亮が何者かと暮らしていたであろう空白の三年間に迫る。
感想
新聞記者の門田視点のパートでは、誘拐事件を追うミステリー要素が強いからか華やかさがなく、正直あまり読むのが気乗りしませんでした。
画廊育ちの里穂のパートは、時に辛く、時に明るくて甘酸っぱく、楽しく読めました。
不器用な里穂に親近感がわきますし、謎めいた亮の内面が少しずつ明らかになっていき、空白の三年間を知りたい気持ちがどんどん膨らんできます。
そして物語が残り三分の一となってから始まる、とある家族のパートは、とても深い家族愛と、写実画へのまっすぐな愛が綴られていました。
ミステリというよりもこれは愛の物語だったのかと、素敵な裏切りにあいました。
事件は時効を迎えているため、解決してスッキリというわけにはいかないのですが、記者と刑事の執念、満たされた三年間と清らかな青春時代、写実画が繋いだ絆が執着した景色は、とても美しく、涙が溢れました。
音楽や絵画などを題材にした小説は、その芸術の表現が楽しみの一つだと思いますが、「存在のすべてを」の写実画の描写もとても素晴らしいです。
実物に忠実のようで忠実でない、奥深いものなんだなぁと知ることができました。
さて、誘拐と家族のお話ということで、「八日目の蝉」を思い出しました。こちらは2008年の本屋大賞ノミネート作品です。
当ブログを開設する前に読んだのであらすじ・感想記事がありませんが…。
また作中登場した「月と六ペンス」も名著ということなのでぜひ読んでみたいです。
作中の言葉
苦労のない人生は振り返り甲斐がない
ダ・ヴィンチの言葉
芸術に完成はない。諦めただけだ。
等の心に残る言葉もあり、読み終わっても思い出してじんわり沁みる小説です。
ころり的好き度
★★★★★
映像化
2027年2月5日に西島秀俊さん主演で映画が公開されるようです。


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